マジックリン

ある晩、寝る前にお茶でも一杯飲もうと思い台所に行ったとき、前々から気になっていた換気扇の油汚れが妙に気になった。「あ~、このギトギトした油汚れをすっきりしたいなあ~。」と思いながら辺りを何気なく見渡すと、有るではないか”マジックリン”が! その台所掃除グッズの王様マジックリンを見つけたことが悲劇の始まりになろうとは…。

渡しに船とはこのことだろうか? 私は迷うこと無くマジックリンを手に取るとテキパキと換気扇の掃除をはじめたのだ。それは、マジックリンでどんな頑固な油汚れも簡単に落とせる爽快感を得る為と、嫁さんの知らない間に換気扇を綺麗にしておき、明日の朝一番に台所に立つであろう嫁さんをビックリさせてやろうという魂胆からだ。

おそらく嫁さんは朝早く起きてきて、いきなり台所に立ち、「え~!うっそお~!きれ~イ!!」と、感動の嵐に違い無い。そればかりか、「もお~、主人ったら~!ニクイことするんだからあ~・・・。今晩のおかずはサービスしちゃうぞっ!」なんてことにもなりかねない。(^^;

そんなことを考えながら黙々と換気扇を掃除する私なのだった。

しかし、半年以上溜めた油汚れは”キング”マジックリンをもってしてもそう簡単には落ちてはくれなかった。私の想像では、マジックリンをシュッシュッシュ….水道の水でジャア~….う~んピッカピカ!(^^)v という予定だったのだが…。

とうとう亀の子タワシも使ってゴシゴシやるはめになってしまった。30分以上ゴシゴシやっただろうか?ついでに換気扇の回りやコンロ回りのタイルなんかも綺麗にしてやっと出来上がった。

そして最後はお掃除道具の後片付け。やはりやりっぱなしではいけない。掃除をしたという形跡を消しておかないと嫁さんの感動も半減してしまうだろう。 しかし、亀の子タワシについたギトギトした油汚れはどうにもこうにもなかなか綺麗になってくれない。しょうがなく亀の子タワシだけはそのまま流し台の角に置いて寝ることにした。 明日の朝、嫁さんが奇声をあげて喜ぶ様を想像しながら…。

しかし、なかなか寝付けない。嫁さんが驚く様を想像するとワクワクしてしまって眠れないのだ。その晩は結局ずっと浅い眠りで夜明けを迎えることとなった。そして、嫁さんが起きてくる時間が来た。私は耳を澄ませてその瞬間に神経をとぎすませる…。

階段を静かに降りてくる足音….そして台所へ….しばらく無音・・・。 そしていつものように食器を洗う音。。。あれっ?気が付いて無いのか??  いや、まあ、まだ子供達も寝ていることだし、奇声を上げたくても上げられないのに違い無い。そう考え、はやる気持をおさえつつ起床時間まで、またしばしの眠りについたのだった。

今度は子供達が起きてくる音で私は目をさました。そして、子供達がみんな起きてきた頃、やっと嫁さんの声が聞こえてきた。

「誰っ! タワシ使ったのっ!!」

お、怒っている!????

たまりかねて私も起きていった。

そして、タワシを使ったのは自分だと告白。しかし、嫁さんの反応は「なんで?」って感じなのだ。じれったくなって、私は「なんか気付かん?」と聞いてみても「なにが??」という。ここまでくると半分言いにくくなってきたが、勇気をふりしぼって全てを告白した。

すると、やっと「ああ~! そういやあ~!」

おいおい、”そういや”かよ!(^^;

私の昨晩の30分以上にもわたる換気扇との格闘はなんだったんだろう?そして、嫁さんのリアクションを期待するあまり眠れなかった自分はなんだったんだろう?

まあいいか、いちおう感謝してくれたことだし…。(^^;

その日は一日中ねむたかった。。

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