今でも時々あの日の事を思い出す。
小学校5年生の時の、とある日曜日。
私はその頃よく遊んでいた友人と2人でバスに乗って街へ出掛けた。何をしに行ったのかは覚えてないが、あるデパートの中に居た。お昼時になり、友人が「お昼ご飯食べよう」と言いデパートの中にあるラーメン屋さんに2人で入った。
元々たいしたお小遣いを持っていなかった私のサイフの中はその時、ラーメンを食べられるほどの小遣いは残ってなかったが、友人のその提案を回避する知恵も持っていなかった。
2人でいっちょまえにラーメン屋さんのカウンターに腰かけ、友人がまず「ラーメン」と、注文をすると、「ラーメン一丁!」と、店員さんが威勢良く奥にオーダーを入れる。
で、今度は流れ的に当然自分がオーダーする事になる。
「いゃ~、俺お腹あんまり空いて無いし、小遣いあんまりないしなぁ~…。」と、友人に聞こえるかどうかの小声で言い訳を口にしながらも壁に並べられたメニューの価格に目をやると、80円だったか100円だったかその位の金額が目に飛び込んだ。
「なんとか足りる!」
コレならなんとか…と、思ったが、そのメニューとは、おもいきり和風の字体で書かれた「めし」だった。
いくら小学5年生の私でも、ラーメン屋に入って「めし」だけを注文する事がどういう事かぐらいはわかっていた。
しかし、付き合いというものがある。
一緒に来ている友人がラーメンを食べているのを横でただ見ているだけよりはマシだと判断した私は「めし」を注文する事にした。しかし、ここでもまた問題が有った。本当にメニューに書かれてあるとおり「めし」と注文するべきか。「ごはん」でいいんじゃ無いだろうか?と。
しかし、店側がハッキリとメニューに「めし」と表示しているのを小5の私がアドリブで「ごはん」と言い換えるのも失礼なんじゃないだろうか…。
そんな事を瞬時に考え、意を決した私は店側の顔を立て、恥を捨てて「“めし”ひとつ」と、消え入りそうな声で注文をした。
次の瞬間、私の注文を聞いた店員さんが苦笑いしながら奥にオーダーを入れる言葉を聞いて、これから私が生きていく事になる社会の厳しさを少しだけ垣間見た気がした。
『ライス一丁!』